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(特別号)【教員Voice vol. 1】「人」と「社会」を育てていく

更新日:2021.8.5|6(2週間) / 113(累計)

阿久津 摂さん

保育士養成専門学校 副校長

 

―この度は、教員Voice第一号としてお話しくださり誠にありがとうございます。早速ですが、養成校で働くことになったきっかけをお伺いできますでしょうか。

 

もともと大学で社会福祉学を専攻しており、福祉の現場をより良くしたいという思いで大学院に進みました。そこでは幅広く福祉政策について調査していて、現場に合った形に政策を変化させていく必要性を感じていました。そして縁あって本校に非常勤講師として着任したのですが、当時研究ばかりしていた自分にとり、保育学生が子どもたちと汗をかきながら楽しんで遊ぶ姿に大変触発されました。子どもたちにとって社会に出て初めて出会う人が保育者なのだと思うと、大変尊い仕事に感じたのを覚えています。

 

―なるほど。今では副校長という立場になられたわけですが、貴学ではどういった教育に力を入れているのでしょう。

 

本校は、学校と保育現場で連携して学生を育てるカリキュラム「デュアル教育」の採択を、文科省より受け実践しております。

 

―デュアル教育とは。詳しくお聞かせいただけますか。

 

デュアル教育はもともとドイツ発祥のシステムです。ドイツには、職人をしっかり育て評価していくマイスター制度というものがあります。専門職についている人の価値が高く、大学と専門学校にレベルの差がさほどありません。一方、日本はこれまで職業教育というものにあまり力を入れてきませんでした。そこにもっと注力していこうと、文科省が動いたのです。

 

―具体的にどのような取り組みなのでしょう。経緯からお伺いできますでしょうか。

 

専門学校では2年生の最後に実習に行きますが、1年生の間は基本的に座学が中心で、現場を見る機会はほぼありませんでした。しかしたとえばイヤイヤ期という発達を習ったとしても、実際に見ていなかったら分からないですよね。生身の子どもに触れ初めて理論と結びつき、面白い、もっと学びたいと思うはずです。その動機づけが学びの中に足りないと思うのです。それから、何より重要である実習評価が園に任せられている現状。非常に厳しい採点をする園もあれば、一緒に育てましょうという姿勢で見てくれる園もある。もちろん必要な指導はありますが、実習の厳しさのあまり就職を諦める学生もいます。非常にもったいなく、どうにかしたいと思ったのです。

 

―そこで必要なのが、学校と保育現場が共に育てていく姿勢なのですね。

 

1年生のうちから数日現場に入り、保育と言うものを肌で感じられる体験をしています。そしてただの体験で終わらせず、挨拶や子どもとのやり取りなど簡単なパフォーマンスチェックをしてもらい次へと繋げていきます。保育団体側も、若い世代が魅力を感じる業界にしなければ先細ってしまうという懸念があるでしょうし、一緒に未来の人材を育てたいという想いを持ち、受け入れてくれています。

 

―職業教育ということで、保育士の社会的地位向上に繋がる取り組みでもあるのでしょうか。
 

そうですね。地位向上がなかなか進まない一因に、保育士は評価が難しいということが挙げられます。人それぞれに素晴らしい保育の仕方があるのは確かですが、それは保育業界の外部からしたら専門性が分かりにくく、点数がつけづらい。保育理念がそれぞれ違い、正解はないからこその難しさですね。ですが正解がないとはいえ、どこかで評価する必要があります。社会人としての基礎力や、子どもや保護者についての知識や対応がこのラインまでできていたら何点など、客観的な基準の必要性を感じています。

 

―保育士を正当に評価するのは大きな課題の一つですね。

 

そこに気づいた企業は独自で工夫し評価制度を打ち立てていますよね。かたや養成校はどうかというと、資格を取れるかどうかを決める実習評価が、非常にふわっとしたものであるという現状です。そして自己評価と他者評価がある程度一致するならよいのですが、自己評価を非常に高くしてしまう学生もいれば、逆に必要以上に低くし人目を気にし過ぎる学生もいます。そういった学生にはふわっとした評価でなく、具体的な行動を認めていく方が効果的です。お互いが分かりやすく、納得して次に進める評価基準が求められるのですが、そういう点では、実習後しばらくしてから返ってくる評価表ではなく、その日にその場でパフォーマンスを指導してもらう物の方が本人も納得し、身になると思います。評価のための評価ではなく、相手と自分の思いを突き合わせて議論できるものが望ましいですね。効果的な評価シートなり基準なりがあると、その項目に沿って互いにフラットに話しやすいのです。

 

―評価のための評価でなく、本人の成長のための評価が必要とのこと、大変共感いたします。

 

そのためにも現場の意見は本当に重要です。学校と現場との共同で、保育士の基礎力を示す評価シートを作ったのですが、「学生が保育者に自分の意見を言う」という項目を入れていいものかどうか、学校側は迷っていました。学生の立場で意見するのは、現場としては「大して勉強もしてないのに生意気な」と思われかねないと懸念したのです。ですが保育団体からは「自分の意見を言えない人を保育士にするのは望ましくない。自己表現できるかどうかも評価のポイントにしたい」と逆に強く言われたのです。日本の学校教育は、自分を発信していこうという方針に切り替わってきていますが、それなのに保育の世界に入るやいなや自分の意見が言えないのはおかしな話。ですので現場に必要な姿勢は、学生などに意見を言われた時に、「あなたはそう捉えたようだけど、この一面を見ていたんじゃない?もっとこう全体を捉えて見てみたらどう?」などと、面倒でも意見を受け止めたうえで指導していくという姿勢だと保育団体側は言っています。

 

―なるほど。では阿久津さんは、今後の保育業界はどうのように変遷していくとお考えでしょうか。

 

保育園も保育士も、選ばれることを目指し、増やす時代からより中身を考える時代になってきました。その際、明確にビジョンを掲げていくことももちろん大事ですが、やりたいことだけやっていても立ち行かなくなります。まずは保護者や子どもの多種多様なニーズを捉え、そこに理念をすり合わせていく必要があるのです。また、更に広い視野を持ち、世間のニーズを把握することも求められています。今言われるのは例えば多様性の尊重。そのために保育の現場で何ができるのか。価値観の多様性という言葉だけが独り歩きするのでなく、いざ実行するための仕組み作りをどうしたらいいか。多様性の概念を育てるためには、子どもたちの初めての社会である保育現場に可能性が秘められていると考えます。障がいを持ったお子さんとのかかわり方もそうですが、「障がい」と言う言葉がなくなるのではないかとさえ言われるほど、多様性が重視されてきていると思います。

 

―自身の保育理念を高く掲げるにとどまらず、保護者・子ども・そして広く社会のニーズを的確に捉えていく必要があるということですね。

 

卒業生の保育士に話を聞いていると、狭い世界に息が詰まることがあると言われます。園を変わるなど物理的な移動もいいですが、保育業界という狭い枠を自分に設けてしまうのではなく、違った場所にもやりがいがあるかもしれないと視野を広げていってほしいとも思うのです。保育・教育・福祉の分野は他の職種やマーケットと分けて考えられがちですが、もっと地繋がりに考えてもいいと思います。もちろん営利目的に偏り過ぎてはいけませんが、行政のお金ばかりに頼らず自分で収益を挙げ継続性を維持しながら自由な競争力を養う必要性を感じます。そうすることで業界はより活性化していくでしょうし、ひいては保育の質や社会的地位の向上にも繋がるだろうと思っています。

 

 

養成校の先生ならではの、人、そして社会を「育てる」という視点で語っていただいた今回のお話。「保育業界は狭い世界だ」と決めつけているのは自身だと気づかされました。これからの時代を築くうえで、その入り口に位置する”保育”が貢献できるところは非常に大きいと言われます。そしてそれを担う保育者を社会全体で育てていく必要性を感じます。また、保育者としては、目の前の子どもや保護者のために従事するという姿勢にとどまらず、社会全体の課題・ニーズを見据える視野の広さが大いに求められているのですね。この度は、大変貴重なお話をありがとうございました。

 

 

(2021.7 聞き手・編集:土屋)

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