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(特別号)【経営者Voice vol. 3】「かっこいい」が業界を変える

更新日:2021.7.8|5(2週間) / 488(累計)

今井裕也さん

30代 保育支援事業運営会社 代表取締役

 

−今井さんは保育・育児支援サービスを展開する会社の代表を務め、プライベートでは保育園に通う2児の父として奮闘中。保育業界で起業しようと思ったきっかけをお聞かせください。

 

大学卒業後、金融機関で働く中で「人生の中で、一度は自分にしかできない仕事をしてみたい」「自分が最高に良いと思ったものを世の中に届けてみたい」と思うようになりました。自分の過去を振り返った時に、「何かを創り上げて、自分で価値を創造した事がない」と気づいたことが大きいです。保育事業で起業したのは、我が子の存在が一番大きいです。

 

−子どもが価値観を変えてくれること、ありますよね。

 

待望の我が子が生まれて、自分の親がしてくれたことを思い出し、自分が親としてしたいことを考えました。我が子だけでなく、世の中の子どものためになる仕事がしたい、と思い現在に至ります。

子育てをしているとどうしても心身共に余裕が持てなかったり、忙しい日々に忙殺され、子どもと向き合う時間が取れなかったりした原体験が大きいですね。「子どもたちを取り巻く環境(家庭や保育園)って余裕がないな。」「そこに少しでも余裕が生まれれば、もっと子どもたちと向き合える。」と思い、現在のサービスが誕生しました。

 

−異業界からの新しいチャレンジ、お子さまが切り開いてくれたキャリアなのですね。日々の育児が仕事のヒントになることもあるのでしょうか?

 

些細なことですが、結構あります。一番最近の出来事は4歳の長男の洋服選び。普段は110サイズを着ていますが、120サイズのTシャツがほしい!と言ったんです。理由を聞くと、保育園のダンスの時間に先生やお友達がオーバーサイズのTシャツで踊っていて、自分もそうしたいと。

仕事では取引先の保育園のお子さまのサイズを聞き、ジャストサイズの衣類を納品しています。子どもにもファッション感覚やおしゃれをしたい気持ちがあって、タイトに着こなしたい日もあればオーバーサイズを楽しみたい日もある。色や柄だけでなく、サイズも子どもが好きなように自主的に選べたらより楽しめるのかな、頭でっかちにならずもっと幅を利かせていいのかな、と新たな気付きでした。長男はオーバーサイズのTシャツを着て、楽しそうにダンスをしています。

 

−お仕事で保育者と話すことも多いとお伺いしました。今井さんから見て、保育者のすごさはどんなところでしょう?

 

保育者の方は、保育の中で本当にいろんなことを考えているなぁと思います。つい最近も「保育園の近所に貝殻からチョークを作る会社があって、とても良い取り組みをしている。子どもたちがコラボできたら面白いと思っているけど、どう思いますか?」と、調理師さんから相談を受けました。そういう投げかけ、相談を保育園で受けることがよくあります。保育現場にどっぷり浸かっている人は発想がないなどと言われますが、とんでもない!マクロではなく一人ひとりを見れば、保育の中で皆さん、無意識に素晴らしい考えを巡らせていますよね。よく意見が出やすい雰囲気をつくることが大切といいますが、雰囲気とか保育士は意見が出ないとか、抽象的な言葉に逃げていては何も生まれません。意見を上げる、取り入れる仕組みを経営者や施設長が作っているかどうか、だと思います。

 

−雰囲気ではなく仕組み、なるほどです。保育者の大変さを感じるところも聞かせてください。

 

保育の効率を良くするプロダクトがたくさん出ています。私達のサービスや、ICTもそうです。ただ保育者は「これを活用して楽になりました!」と言いたがらないなと感じています。保育の仕事が大変じゃなくなったと思われたくない、という思いがあるというか。

楽になったではなくて、余裕が生まれた分、私達の保育がもっと良くなりましたとか、効率的で雑務が減った分、こういうことができるようになりましたなどの、前向きな時間になれば、より良いなと思っています。経営層には経営効率を上げる任務があるし、楽になった時の保育者の感じ方もさまざま。仕事が楽になり「もっと子どもの目を見て話せるようになる」も「早く帰れるのが嬉しい、ラッキー」も、ありますよね。経営効率と保育の質の引っ張り合いが難しいなぁ、大変だなぁと思います。自分はプロダクトを提供する側ですが、子どもたちに直接影響を与えられるのは保育者ですから、誰に対しても一貫して「僕は保育者の味方です」とメッセージを伝えています。

 

−従来の仕事が楽になった先の考え方の違い、興味深い観点です。「保育者の味方」というのもとても頼もしいですね!保育業界はこの先、どのようになったら良いと思いますか?今井さんの想いをお聞かせください。

 

保育業界はもっとかっこよくならないとダメだと思います。「かっこいい」という感情は、業界を変える力があります。Googleのエンジニアだって、今でこそ「めちゃくちゃかっこいい」のイメージですが、10年前は「ただのオタク」でした。どこかで価値変換が起こっているんですよね。

保育のかっこよさを引き出すには、保育者の皆さんの意識変革が一番大切だと思います。「私は保育士しかできない」「他に取り柄なんてない」という方もいますが、保育士じゃない自分からしたらとてもすごいこと、羨ましいことです。例えば画家の人とか、アーティスト、英語や音楽、体育の先生の中でも「さらに保育ができたら、もっと選択肢が広がる」と思っている人も、いると思うんですよね。

「私には保育しかないから、保育士をしています」と言ってしまったら、それで終わってしまう。「保育士として子どものために何ができるか」「こういう人になりたいな」「保育と何かをかけ合わせてみよう」など、今や将来に向けて考えてほしいなと思います。何事にも言えることですが、過去を悲観しちゃいけません。

「保育ってかっこいいよね」の議論がさまざまなところで起こるよう、保育関係者みんなで一緒に頑張っていきましょう。

 

【今井裕也さん×保育のひとコマ】

私たちが提供する商品は本来であれば廃棄されてしまう生地を使っており、それを子どもたちでシェアすることで、無駄な廃棄を無くし、子どもたちの明るい未来に繋げていきます。ご家庭や保育士の皆さまに少しでも余裕を持って子どもたちと接していただきたいという強い想いと、子どもたちの未来を守りたいという想いの両立を目指しています。また、衣服にはTORANOCOのロゴと共にサイズが一目で分かるように表記されています。これは現場の保育士さんからのアイデアで実現したものです。(今井裕也さん)

 

抽象ではなく具体、雰囲気ではなく仕組みを作ること。仕事をする上で、有耶無耶にしてはいけない観点をカラッと明るく潔く、お話くださいました。今井さんが展開するサービスは、長年保育士としてご活躍するお母様とのご意見交換を基に開発されたそう。手足を使って頭を使って、あるものを精一杯使って、楽しみながら前進する姿ってかっこいいですよね。

今井さん、この度は貴重なお話をありがとうございました!

 

今井さんのTwitterはこちら。

(2021.6 聞き手・編集:鏡味)

 
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